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Sunday, September 12, 2010

教育美術連載 (2010年10月号):戦争を知らない子ども達からのメッセージ

8月31日に偶然耳にしたオバマ大統領のイラク戦争終結宣言を聞いて、元々書こうと思っていた内容を急遽変える事にした。それが以下の原稿内容。(ただし、下書きの方です。最終版は近々出版の「教育美術10月号」を見ていただけれると、参考の描画とともによりわかりやすいかと思います。どうかよろしくお願いします。)今日は9月11日。あれから丸9年。2001年あの日のことは真っ青な空とともに今でも昨日の事のように思い出す。

この日のことはもうひとつのブログ "TokuToku Journey" の「9年目の9月11日」の中にも書いています。


図1:図録2頁左上「9月11日その後の世界」米国大学生作品
図2:図録26頁上段左「7年間の破滅(失われた時)」米国高校生作品
図3:図録9頁下段中央「名も亡き兵士」米国高校生作品
図4:図録16頁上段中央「核廃絶」日本中学校生徒作品

4コマアート巡回展示会作品紹介(10月号):戦争を知らない子ども達からのメッセージ
August 29, 2010

残暑の残る夕暮れ、ぼーっと日本のニュース(衛星放送)を見ていたら、オバマ大統領の演説が流れて来た。何かと原稿を書く手を休めて、聞き耳をたててみると、イラク戦争の終結宣言。思い起こせば、湾岸戦争が始まったのが1991年1月のこと。そこから数えるとほぼ20年にもなる。「世界の警察」を自称する巨大な軍隊を持つアメリカでは、戦争は常に身近な話題でもある。総兵力は約260万。その内正規の職業軍人が140万、残り120万が大学や企業に通いながら、定期訓練を受け、有事に呼び出しを受ける待機組。また経済的な理由から高校卒業とともに軍隊に入り、その見返りとして大学に通っている学生も結構な数に上る。実は私の一般教養クラス(芸術鑑賞学)にも数人いることを知ったのは、2001年の同時多発テロ事件の直後のこと。それまでは、そんな学生が自分のクラスにいることさえ知らずにいた。9月11日当日、ハイジャックされた飛行機が爆弾を積んで西海岸の大都市へ向かっているというゴシップが流れ、カリフォルニア州では大学を始め全ての公立学校は閉鎖となり自宅待機の状態。その数日後私の元にいくつかのメールが届いた。生徒の名前と戦地へ赴くためクラスからの正式な削除願いである。その中には直接本人から「また機会があったらクラスに戻りたい。」と書いてあるのもあった。胸がつまった。あれから10年。その後彼ら彼女等が大学に戻って来たかどうか私はまだ知らずにいる。そういう環境の中、戦争をテーマにした作品がアメリカの子ども達からも少なからず寄せられた。今回はその中4点紹介してみたい。「9月11日のその後(図1)」、これはこの4コマアート(公募B)を大学の美術教育の授業の中に入れるようになった最初の年2002年度作品。最も印象的な作品の一つ。ピカソの「ゲルニカ」を元に、9/11の際、実際に惨劇に巻き込まれたのは市民であることを訴えている。実はこの作品には裏話がある。作者のフィアンセ(軍人)が事件を受け当時イラクへ行ってしまっていたのである。自分の大切な人を戦争へ送り出さなければいけなかった彼女自身の気持ちから出来た作品。図2は同テーマ作品。中心となった著名作品はゴヤの「5月13日の死刑執行」。作品自体のタイトルは「7年間の破滅(失われた時)」とある2008年度作品。7年後の当時もまだイラクは戦争状態であることを示唆している。次の2点は「公募A作品。「名も亡き兵士(図3)」はフロリダの高校生作品。戦地へ赴く十代と思われる兵士が華やかに送られている。やはり大学奨学金支給をえさにリクルートされたのだろうか。そのシーンと重なるように兵士の最後の姿である墓とそこに刻まれた「Unknown<(無名)」という言葉。アメリカの現状を物語っている。最後は日本から中学生の作品「核廃絶(図4)」。原爆を実際にそれも2回も落とされた唯一無二の国、日本からのメッセージである。

Saturday, September 11, 2010

教育美術連載 (2010年9月号):主流派に属さない「おやっ?」な作品達

図1:図録13頁上段右「Rainbow: A little Happy Day(虹:ほんの少し幸せな日)日本小学生作品

図2:図録16頁下段右「生命(いのち)」日本中学生生徒作品

図3: 図録31頁下段「赤富士の真実」日本大学生作品

4コマアート巡回展示会作品紹介(9月号):

主流派に属さない「おやっ?」な作品達

July 31, 2010

Masami Toku

2008年から4コマアートを公募して3年、すでに千点近くの作品が日米から集まった。 「僕(私)たちの世界で今何か起こっているか」の主題のもと、自分たちの回りで起こっている事、小さな事大きな事に関わらず、気付いたことを4コマ(起承転結)の形で表現してみよう、ということだが、 先の8月号でもお伝えしたようにこどもたちの表現したテーマは、日米に限らず共通の傾向がある。「温暖化現象」や「大気汚染」を始め、「動物虐待(意図せずとも結果的にそうなったものも含む)」などなど現代社会に警鐘を促す、大きなテーマを描いているものが主流である。メディアの影響も大きいのだろうが、こどもながらに社会的問題を自分の目を通してきちんと捉えているところに驚かされる。が、これら主流派に属さない、そしておやっ何を伝えたいのかとおもわず興味をそそられるそんな作品にも時々出会うことがある。今回はそんな中から3点紹介してみたい。

Rainbow: A little Happy Day(原題)」(図1)。窓から差し込む光が、小学校の校舎の廊下だろうか、床に虹を映し出しているという情景を表現している。日常の中、偶然に出会った些細な出来事、そしてそんな小さな一瞬のことが一日を幸せにしてくれるという作品。そうそうこういう小さな幸せを心の支えに、私たちは生きていけるのよねと共感できるほのぼの作品である。実はこの作品、昨年2009年度奄美大島の皆既日食イベント関連(展示会&講演会)で来島してくださった少女マンガ家、萩尾望都(もと)氏が好きな作品として選んでくださったものでもある。

「生命(いのち)」(図2)は、花の咲くプロセスを通して命の輝きを描いた美しい作品。実はメッセージというより、コマ割の構図がとても日本的だったので、図録掲載に決めた作品。しかし、この作品テーマのいきさつを感じさせるような出来事に先日偶然出会った。この夏友人から奄美をテーマに作品を作り続けている奄美在住のとてもよいアーティストがいるので、一度会ってみないかとお誘いをうけて出かけた。まだ四十台の方で、子だくさん(八ヶ月から高校生まで5人)、数年前脳梗塞を煩い半身麻痺になり、木彫りのミニチュア作品を作られているとのこと。リハビリを兼ねて習い始めたという蛇味線(じゃみせん)をひきながら語る口調は穏やか、しかし作品を通して奄美大島の文化と歴史を紹介したいという熱い心を持たれた方でもあった。話しの流れで、お子さんの一人の作品が図録に載っていることを知り、改めて作品を見直し、思わずはっとした。この作品は彼の実際の体験(家族の出来事)を通して描かれたメッセージだったのである。

最後は暑い夏を涼しくさせる一筋の風のような作品「赤富士の真実」(図3)。図録の中にも作者の説明があるように、北斎の赤富士を逆さに見立てたら、夕焼けの雪山の間にたたずむ木々に見えたというもの。当たり前のように見えている情景が角度を変えて見る事により、全く別のものに見えてくる。静かなしかし示唆に富んだ詩情あふれる作品であり、多角的な視点で描かれている力作でもある。

4コマアート作品との出会いはまたその作品にかかわる人たちとの出会いでもある。今月はそれを感じさせる作品の中からいくつか紹介させていただいた。公募は締め切りなしの継続中。これからもいろんな作品に出会えることを楽しみに、日本での夏を終え、そろそろアメリカへの帰国の日が近ついている。

Friday, September 10, 2010

教育美術連載 (2010年8月号):4コマアート作品の比較分析&描画発達論考察

(写真1)2010年度参加者作品31点(マリーゴールド小学校6年生)

4コマアート巡回展示会作品紹介(8月号)

2011年度米国美術教育学会に向けて:

4コマアート作品の比較分析&描画発達論考察

July 2, 2010


先日7月1日(米国時間6月30日)締め切り寸前に来年度2011年度NAEA学会(National Art Education:米国美術教育)へのプロポーザルを提出。ほっと一息。毎年3月か4月に米国の都市で開催される米国(世界?)最大の美術教育関連の学会で、例年5千人前後の参加者がある。2011年度は、前回2000年ロスアンジェルスで開催されて以来、久しぶりに西海岸へ、それもNAEA創立(1947年)以来初めてシアトル(3/1720)での開催。カリフォルニア在住の私にとってはうれしい限り。はりきって同僚&友人達と太平洋を臨む地域である米国西部そして環太平洋文化諸国を中心とした美術教育を基軸にパネルディスカッションを組む事にした。題して「Ring of Fire Forum」。昔アイマックスシアターでパノラマドキュメントを見て知った地学用語「環太平洋火山帯」から拝借した。ちょっと気を衒(てら)いすぎ?と思わなくもなかったが、これでよいと皆にほめられたので調子にのってそのまま出した。何せ、NAEAは例年千数百件を超えるプロポーザルがあり、その中から約半分6百件が発表許可を得るという競争率の高い学会である。皆もそれをわかっていて、落ちることを想定して一人数件を申請するのが常。今回私は三件を申請。その中の一つとして、この巡回展示会作品4コマアートの比較分析進捗状況を発表することにした。この4月より誌上をお借りして執筆させていただいている4コマ作品の比較分析は思いのほか楽しく、期待していた以上に多くのことを発見することができた。特に作品のテーマや表現方法の相違には、各作品の根底にある文化/社会的背景の相違が強く反映されていることを再確認することができたのは収穫だった。この比較分析の発表は意義あることではないかと思う。プロポーザル題には「 Tradition and Innovation in Cross-cultural Analyses of Children’s/Adolescent’s Art (子ども/青少年の描画比較分析における伝統と革新性) 」とつけた。結果は今年末までにメールで通知されることになっている。

ということで、今回も前置きが長くなってしまったが、図録掲載の各作品の比較分析ではなく、全体的な傾向について今回は簡単に触れてみたい。2008年以降各地より作品を収集しているが、その中で2年続けて「カテゴリーA」作品を提供してくれた学校にチコ市マリーゴールド小学校がある(図録参照)。前回2008年度は5年生だった彼ら彼女等が6年生になり、その成長を2度目の作品から見る事ができた。その中で特に顕著だったものの一つに、4コマのコマ割の変化があった。前回の参加の際、ほとんどのコマ割が同じように4分割(上下2つずつ)だったものが、今回は多種多様なコマ割に変化していた。コマの方向の違い、そして異なる形のコマの組み合わせなど多岐に渡っていた。またコマのわく線も直線からギザギザ線など、作品内容や感情によって異なったものを使用したり、あえてコマ線を一部排除して、「3つのコマ+全体をひとつの背景コマ」の4コマとして表現しているものもあった。なぜこうも変化したのか。各人に取材をしていないので、詳細は不明だが、まずこれが2度目の作品提供であり、前回の展示会を通して他の作品(日本人生徒)を目にし少なからず影響を受けたことも原因ではないか。また前回が宿題として各自自宅に持ち帰り、個人で作品を作成したのと異なり、今回は授業時間を利用して、クラスの中で作成したことが一番の理由ではないかと思われる。クラスの中で同じ場所時間を共有する中での作品作成。お互いの作品を気にしながらの切磋琢磨の作成風景を想像するのはそれほど難しいことではない。結果たくさんのそして魅力的な作品が出来上がったのである。この他分析結果詳細については、来年3月までにまとめてみたいと思う。

これら同6年生の31作品をテーマ別に分類した結果は下記の通り(写真参考)。

Animal Cruelty (動物虐待)*直接の虐待だけでなく、魚乱獲など現在話題になっている人間の行為が結果として動物生物の破滅に関与している主題作品も含む)」9点, Global Warming (温暖化問題)」4点、「Disasters (災害惨事)」4点、 「Deforestation (森林破壊)」3点、「 Life Cycles (Time Progression:ライフサイクル)」3点, Pollution (大気汚染)」3点, Others (その他)*この中に音楽や美術が教科の中から削減されること異を唱えている作品もあった。」5点。

Thursday, September 9, 2010

教育美術連載 (2010年7月号):「ディベイト(討論)」の国アメリカ「沈黙は金」の国日本

図1:図録7頁上段右「選挙」バラク オバマ (Barrack Obama) vs. ジョンマッケーン(John McCain) 米国6年生徒作品
図2:図録21頁上段右「真実の恐怖」米国美術教育専門の学生作品
図3: 図録30頁上段右「変化」シェパードふぇりー(ブッシュからオバマへ)米国一般教養クラス学生作品

その他関連作品:

図4: 図録26頁下段左「アメリカ:全てはかーペットの裏へ」(ニクソン:ホワイトゲート事件、クリントン:モニカ スキャンダル事件、Martha Stewart:米国のカリスマ主婦脱税事件)
図5: 図録30頁下段左「僕をリーダーのところへ連れてってくれ」(毛沢東)米国生徒作品アンディウオーホール

4コマアート巡回展示会作品紹介(7月号)
ディベイト(討論)」の国アメリカ「沈黙は金」の国日本:学校(美術)教育において政治を語ることはタブーか否か

渡米し20年経つ。息子の成長とともに学校教育に参加するようになって、日米の教育内容一般そして授業のアプローチの違いを痛感するようになった。その一つが「ディベイトの国アメリカ 沈黙は金の国日本」である。米国では、子どもでも社会問題に対して積極的に関わり、問題を調査、自分なりの回答を見つけるという問題解決能力を高める参加型アプローチをとることが多い。それを最初に感じたのが、1990年初頭、イリノイ州シャンペーン市で小中学校の美術教師として4年間教鞭をとっていた時のこと。当時大統領選挙選の真っ最中、こどもたちを二大政党である共和党と民主党のふたつのグループにわけ、それぞれの論点をまとめ長所弱点を討論させる授業を行っていた。自分の考えを論理的に説得力のある形で話すためには、異なる意見でも相手の話しをよく聞き、そしてまた理解することが欠かせない。討論の基本である「聞く」と「話す」のプロセスを学ぶという小学校3年生の授業。そのテーマが大統領選というところがアメリカ的である。政治の問題は大人の問題と子ども達に介入させないのが日本であるとしたら、早いうちから社会の問題を積極的に考え、参加させるというアメリカの社会的教育方法ともいうべきものに驚き、こういう教育を子どものときから受けた人たちにはとてもかなわないと正直その時思ったものである。 それから既に15年以上経つ。

さて個人的なことで恐縮だが、我が故郷奄美大島は普天間基地移設の候補地の一つとして徳之島が候補にあがり、今その渦中にある。この問題について、例えば、中学高校の授業の中で、誘致/非誘致のふたつの可能性でそれぞれの論点を絞り出して討論をする授業など行われる可能があるだろうか。日本の国民性を考えた時、日本の学校教育の中、例えば、社会、もしくは総合の時間で、これら感情的になりがちな問題を客観的に見つめ、両方の立場から討論討議をうながすような授業を実施できるような日が来るだろうか。正直想像しにくい。日本の教育にこれから必要なのは、将来生きて行くために、自分で考え自分で答えを見つけ出す能力を育てる教育であろう。それに美術教育は貢献できるのか。 世界は答えの簡単に出せない問題であふれている。

ということで、やっと本題に。4コマアート「僕らの声:世界で今何が起こっているのか」の日米から集まった作品中、今月は政治にからむ作品をご紹介。日本から参加した作品の中にはほとんど見る事ができなかったが、米国ではちょうど2008年の大統領選と重なった事もあり、「公募AB共に、選挙や政治をテーマにした多くの作品が集まった。以下図録に掲載されたものの中からの紹介である。

図1(図録7頁上段右)は「公募A」作品。「選挙」という題の小学6年生の作品。民主党オバマと共和党マッケーンの両陣営。それを応援する民衆の喧噪振りを幼い絵柄ながら的確に表現している。その他は皆「公募B」作品。図2(図録21頁上段右)米国美術教育専門の学生作品「真実の恐怖」。有名なムンクの「叫び」を元に、8年続いた共和党ブッシュの後、再び同党からマッケーンが選ばれたしまった時(当時の仮定)の恐怖を描いている。図3(図録30頁上段右「変化」)は米国で人気のシェパードフェリーの版画作品を元に、ブッシュからオバマへの政治変換を表しているが、ブッシュの絵三点の下に夫々「惨劇」「恐怖」「戦争」と記載しているのに、最後のオバマの絵の下に何も記載されていないところが逆に暗示的である。米国一般教養クラス学生作品。その他関連作品として、図4(図録26頁下段左「アメリカ:全てはかーペットの裏へ」) はバンクシーの作品を元に、政治的スキャンダルそしてそれを隠蔽しようとした行為を笑った作品(元米大統領ニクソン:ホワイトゲート事件、元米大統領クリントン:モニカスキャンダル事件、マーサ シチュアート:米国のカリスマ主婦脱税事件)。最後図5(図録30頁下段左)は、ご存知アンディウォーホールのシルクスクリーン「毛沢東」を元に4コマに仕上げた教員養成プログラムの学生作品。タイトルは「僕をリーダーのところへ連れてってくれ」。作品に隠された意味を皆さんで想像してみてください。私はというと、、、(本人に聞いているので、正解を知っていますが、いろいろな解釈ができるかと思います ^_^)

Wednesday, September 8, 2010

教育美術連載 (2010年6月号):「カテゴリーB」において人気のアート作品は?

図1:図録18頁「温暖化現象」米国生徒作品
図2:図録19頁上段左「時間は溶け去って行く」米国生徒作品

その他関連作品:
図3: 図録27頁下段右「所有、摂取、膨張、そして知覚」米国生徒作品

4コマアート巡回展示会作品紹介(6月号):
「カテゴリーB」において人気のアート作品は?

April 26, 2010
Masami Toku

今月は「カテゴリーA」ではなく、「B」作品の紹介をひとつ。これは「A」同様、「世界は今どうなっているのか?」というテーマで作品を4コマで作りあげるのは同じだが、4コマ(起承転結)の中に必ず1コマ、著名な作品を入れるところが異なっている。作成方法の流れとしては、まず著名なアートを一つ選んだ後、そのアート作品を自分の表現したいメッセージ内容に合わせ、オリジナルの持つ意味を変化発展させ、効果的に使うというところがポイント。結果としてオリジナル作品の意味から想像を超えたストーリが生まれている場合も多く、こどもたちの想像力の豊かさに改めて感嘆の思いで一杯になることもしばしばである。

小学高学年(5&6年生)を対象とした「カテゴリーA」と異なり、この「B」は、高校生以上に向けて主に公募したが、「著名作品」という概念に共通の作品を選んでいる傾向もあり、その際、同じようなメッセージが表現されている場合と、全く異なる場合の2つに分かれていてとても興味深い。

さて下記に紹介する三作品は人気作品の一つ、ダリの「記憶の固執(Persistence of Memory, 1931)」、を元に4コマに作られている。もちろんポイントはダリの絵の中の溶けている時計であり、そのイメージから生徒自身ストーリーを膨らませているのは共通しているが、全く異なるメッセージの三作品に仕上がっている。

図1のタイトルは「温暖化現象」(図録中18頁)。溶けていく地球、水位があがって行く都市、そしてその中で全てが溶けさっている様子を示すことで、この作品が作成された2008年以降、2010年現在ますます世界で議論されている注目のテーマを表現。パステルカラーの優しい色調と繊細な線の絵柄を通して、静かにしかし力強くそのメーッセージを伝えている。

一方、図2の「時間は溶けさっていく」(図録中19頁上段左)は、溶け去っている時計で時間の経過を表し、「誕生、成長、老い」そして最後のコマにダリの絵で、全ては同じ運命を辿ることを示唆している。

最後に、図3の「所有、摂取、膨張、そして知覚」(図録中27頁下段右)はとてもユニークな作品で、たぶん日本の生徒では思いつかない作品かもしれない。単純に見るときのこ(毒?)を食べた少年(青年)が幻覚(溶けている世界)を見ているシーン。この作品を見た瞬間アメリカでは一様に笑いが出る。このきのこをドラッグと置き換えて見てみるのは深読みしすぎだろうか。そう読むとこの作品の中に現代アメリカの若者の問題も浮き彫りにされているような気がする。

最初の二作品は高校生の作品。美術を選択科目として取っている学生達である。日本では美術科目の存続について議論が伯仲しているが、アメリカでは中学(&高校)で既に必須でなく、選択になって久しい。ただ選択といえ、日本と少し方向が異なる。美術を選択した場合、毎日美術の授業があるのである。これもひとつの選択科目としての方向性であり、結果としてかなり質の高い授業が展開されている。

最後の作品は私の教えている一般教養のクラス「Arts100: Art Appreciation- Multicultural View (芸術鑑賞学—多角的視点にて)」の生徒の作品。小論課題の一つとして毎学期授業の中で与えているもので、論文とこの4コマアートの提出を義務づけている。120名の学生中、約7−8割が高校出たての新入生で、アートの専門外の学生達である。この芸術鑑賞学のコースは米国の大学では一般教養の講義コースの一つとして定着しており、「What is Art? What is Art for?(アートとは何か?アートは何のためにあるのか?)を学ぶことになっている。優れた教科書もたくさん出ている。 日本の大学では「芸術鑑賞学」はどのように取り扱われているのだろうか?

Friday, September 3, 2010

教育美術での連載 (2010年5月号):公募作品「カテゴリーA」で日米とも一番多かった主題は?

続けて下記5月号のドラフト原稿です。教育美術をもし既にご覧になっている方がいらしたら、どの部分が変更になっているかお気づきでしょうか?自分で読んでみて、「間違い探し」ならぬ「変更探し」を楽しんでいます。

図1:図録7頁下段右「シロクマのお昼寝」米国生徒作品

図2:図録10頁上段右「北極グマの憂鬱」日本生徒作品

その他関連作品:

図3: 図録8頁下段左「シロクマが死んでいく」米国生徒作品

図4: 図録11頁上段左「温暖化現象」日本生徒作品

図5: 図録11頁上段中「温暖化現象」日本生徒作品

図6: 図録11頁上段右「北極ぐま」日本生徒作品

図7: 図録17頁上段左「ホッキョクグマと地球温暖化」日本生徒作品

4コマアート巡回展示会作品紹介(5月号):

公募作品「カテゴリーA」で日米とも一番多かった主題は?

April 4, 2010

2008年「ぼくらの世界で今何が起こっているか?!」をテーマに日米の子どもたちから作品を公募した結果、集まった「カテゴリーA(上記のテーマを元に自分で選んだ主題を4コマで表現)」の作品中、一番多かったのは日米両国とも「グローバルウォーミング(温暖化現象)」。当時メディアでさかんに話題になっていた問題でもある。きっかけは元米国ゴア副大統領を環境問題の論客として作成されたドキュメンタリー映画「不都合な真実 (An Inconvenient Truth, 2006)」。同作品が翌2007年第79回アカデミー賞において長編ドキュメンタリー賞を受賞、そして環境問題の啓蒙に貢献したとして同ゴア氏へのノーベル平和賞が授与されたのは周知の事実である。私たちの生活の中から排出される二酸化炭素の増加によっておこるオゾン層の破壊、その結果、世界的レベルで温暖化が加速され、多くの問題が起こると警鐘され始めていた。世界で起こっている問題について思いを巡らせたとき、子ども達にとって最も身近な主題が「温暖化現象」だったのだろう。それでは同主題について、日米でどのような表現の作品が集まったのか。表現方法に相違はあったのだろうか。

おもしろいことに日米に限らず、多くの同主題作品が「シロクマ」を中心にストーリーを作り上げていた。(図1&2参照)これはちょうど温暖化現象の問題の一例として、テレビ等で良く取り上げられていたのが、北極の氷が加速度的に溶け始めているということ、そしてその結果氷を横断してえさのアザラシを捕りに行くシロクマがえさをとれなくなり、餓死していく現象がさかんにテレビ等で繰り返し放送されたことが、「温暖化=シロクマの餓死」というイメージに直結し、子ども達の記憶の中にインプットされてしまったのだろうと想像できる。

図1と2を見比べてみるとその主題やストーリー展開に日米に共通していることが多いことに気付く。それでは顕著な違いはあるだろうか。この二作品は4コマの割り方は同じであるが、読む方向に違いがあるのがわかる。図1の米国作品は、上段から初めて左から右へ、そして下段へ同様に左から右へと進む。図2の日本作品は、右段から初めて上から下へ、そして左段の上から下へと読み進むようになっている。もちろんこれは英語と日本語の言語の違いから来ていることはすぐに理解できる。実はその他にもう一つおもしろい違いがあるのである。図1の作品が正面からシロクマを見るようにして描かれているのと異なり、図2の作品は俯瞰的に描かれている。そして2コマ目(右段下)のシロクマが意図的に枠からはみ出るように(カットされて)描かれているのである。私が10年以上前に、日米のこどもの描画表現の違いとして、空間表現の相違を述べたことがあるが、同じ表現をこの4コマの中にも見つけることができてちょっとうれしい気分。やはり文化による表現方法の違い、そして日本人特有の表現方法は確かに存在するのである。

Thursday, September 2, 2010

教育美術での連載 (2010年4月号):4コマアート展示会紹介

前にこの4月から美術教育雑誌「教育美術」誌上で連載を始めることになったことをお知らせしたことがあるが(4/23記載)、今日その担当の目等(めら)さんから許可をいただいて、出版済みの原稿(ただし出版された原稿ではなく、その前のドラフト原稿)をここに掲載させてもらうことにした。興味のある方は、最終版もあわせて、教育美術誌上でご覧になっていただけれるとうれしいです(^_^)。批評等いただけるともっとうれしいのですが。

以下その最初4月号の原稿です。

4コマアート巡回展示会紹介 (教育美術2010年4月号掲載)

この4コマ(マンガ)アート公募展のきっかけとなったのは2001年からカリフォルニア州立大学チコ校の教員養成コースの中で実施した美術教育カリキュラムが元になっている。

当時米国の美術教育ではヴィジュアル(ポップ)カルチャー(Visual pop-culture)がトレンディーなテーマとして盛んに話題となっていたが、ヴィジュアルカルチャーの理論的な解釈と視覚イメージを通して社会をどう読み取るかの批評的アプローチが中心で、それに伴う効果的な実践カリキュラムについてはまだ試行錯誤の状態であった。

一方日本においては、当時ヴィジュアルカルチャーの中心を担っていたマンガが、日本を超え世界へと広がり、世界中のこどもたちを魅了し始めた頃でもあり、それが米国の美術教育界でも話題になり始めた頃であった。

それはまた、こどもたちを魅了してやまないマンガの人気の理由、そして子どもの認知や美意識に与えるマンガの影響など、マンガそのものがアカデミックなテーマとして話題になりはじめていた時期とも一致する。

他国のコミックには見られない、日本のマンガ独自の魅力とは何なのか。それがコミック共通の3つの構成因子(絵、言葉&吹き出し、コマ)のマンガにおける特異的発達並びにその使い方の妙にあるということは現在周知の事実である。またグラフィックノーベル(Graphic Novel)というマンガの代名詞にも現れるように、マンガで表現されるストーリー展開の質の高さが、男女年齢を超えて世界を魅了する要因になっている。

そこでこのマンガの特徴を使ってその魅力を損なうことなく、どのように美術教育カリキュラム(レッスンプラン:Lesson Plan)の中に採用していくのかを考えていくことになった。一般的な描画の発達論、例えば、リード、ローウェンフェルド、ウィルソン (Read, Lowenfeld, Wilson) を見るまでもなく、発達の過程でこどもたちが必ず通るパターンの一つとして、「絵の中に物語を作りあげる」という特徴が普遍性としてある。そこでその物語を、一枚の絵ではなく、パネルの連続した絵という形で、それもマンガ(コミック)形態の特徴の一つである4コマという形で表現するカリキュラムを作成してみた。「4コマ」つまり「起承転結」の形で表現すること、日本では一般的な4コママンガの表現方法だが、偶然に米国において、文章を組み立てる基本的な方法論が「起承転結」と全く同じ4つの展開「Introduction, Supporting sentence, transition, and conclusion」であることを発見し、これを文章ではなくヴィジュアル(Visual)、つまり絵を使って4つの展開パターンを表現する、日米共通のヴィジュアルリテラシー(Visual Literacy)を高める効果的なカリキュラムとして実施することとした。

2001年カリフォルニア州立大学チコ校の教員養成プログラムの中で、カリキュラムの一例として構想から始めたこの4コマアートレッスンが7年という年月を経て、一般公募という形で世界から作品を集めるという形で展開していくことになった。その成果を展示会として紹介できることをとてもうれしくまたありがたく思うと共に、今後巡回として展開していく中で、巡回各地でまた新たな作品が集まり、各地のこともたちの声が大きく響き渡り、私たちの世界がまた新たな視点で再認識されることを、そしてよりよい世界になっていくことを、少しロマンティックすぎると思いながらも願わずにはいられない。こどもたちに未来があるか、そしてその未来を私たち大人はちゃんと残していけるのだろうか。こどもたちの声を通して今私たち自身が真剣に考える時期に来ているのだと切に思う。