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Sunday, February 1, 2009

思えば遠くにきたもんだ(9/2003)美術科教育学会原稿?

渡米して美術教育の末端に座らせてもらうようになってから、日本語でも原稿の依頼をいただくようになり、結構書いているような気がする。ありがたいことに何人かの友人や美術教育関係者から米国の美術教育の現状を定期的に紹介してほしいという言葉をいただくようにもなった。まずは、あちこちに分散している原稿を、少しずつこのブログに整理していこうと思う。そして、いつも頭の中だけで、反芻して、なかなか文章にして発言してこなかったことを、紹介できればと思う。ということで、まずはすでに出版されている最初のころの原稿から、誤字もそのままに掲載します。(恥ずかしいことに)いつ執筆したのかの記録がどこかにいってしまって、どこへの原稿が正直いってはっきりしないのだけれど、たぶん美術科教育学会のニュースレター(もしくは教育美術)への原稿だったと記憶しているのだけれど、、、


「思えば遠くに来たもんだ」

徳 雅美

カリフォルニア州立大学チーコ校

The California State University, Chico

「何か美術に関する仕事につければ。できたら美術館で。」という程度で明確なプランもなく10年勤めていた総合化学研究所を辞め、イリノイ大学(The University of Illinois at Urbana-Champaign)へ編入すべく片道切符を手に成田よりシカゴヘ向けて飛び立ったのは忘れもしない1989年7月24日のこと。その後1991年1月、シカゴにあるシカゴ美術学院(The School of the Art Institute of Chicago)の芸術学部に編入しなおし1992年夏に卒業。同年イリノイ大の美術教育大学院に入り、全てを終えたのが1998年1月。そのまま臨時講師として同大学美術教育学部に一年ほど勤務し、現職であるカリフォルニア州立大へ助教授として招かれたのが翌年の1999年夏。渡米してからちょうど10年目のことである。現在日本を離れて丸14年。思えば遠くに来たものである。

最近、日本人の学生に米国の大学で生き残れるこつはと聞かれることがある。こつなどない。が、生き残るための条件というものはあるらしい。先日、日本の週刊誌を手にしておもしろい数字を見つけた。ある統計によると(確か「サンデー毎日」か「週間朝日」での情報だと思う。)、年間約8万人の日本人がアメリカに留学しており、無事卒業できるのは約4千人だそうである。この数字は大学、大学院等の内訳、さらにどういう条件で留学したかの詳細が掲載されていないので、非常に大ざっぱな統計であるのは否めないが、それでも単純計算にして20人に一人、全体の約5%しか生き残れなかったことになる。

さて、留学で生き残る三つの条件である。1)経済力2)英語力3)忍耐力だそうである。なるほどと思う。まず、1)の経済力。これは言わずもがな、お金のことである。学生という条件で渡米する以上、基本的に米国での就労は許されないので、留学期間の学費、滞在費、諸経費を含めて一年分の必要額を「銀行証明」という手段で明示しないと学生ビザは下りないことになっている。米国の大学から奨学金を貰えるのはごく限られた学生だけなので、ほとんどの場合は親か自分自身で用意することになる。比較的学費の安い州立大に行くとしても、少なくとも初年度は諸経費含めて約2万米国ドルが必要となる。これの4年分を計算すると、実に頭が痛くなる額である。次に、2)の英語力。米国の大学で学ぶことを目指しているのなら、日本においては寧ろ、英語で「読む」「書く」を中心に勉強し、「聞く」「話す」は米国にきてから、その環境の中で徐々に慣れていくしかないような気がする。習った英語と実際使う英語はかなり異なるものである。最後の「忍耐力」。実は個人的にはこれが一番重要な要素だと思っている。我々は好むと好まざるとに関わらず自分の生きてきた社会(母国)で培われた価値観というので物事を判断しがちである。多文化国家である米国のような国で生きていくためには、各文化により価値観が多様であることを再認識する必要がある。つまり自分の価値観だけで相手をそして相手の文化の善し悪しを判断しないこと。実はこれが以外と難しい。そして外国にでると必ず感じる差別(discrimination)偏見(bias)というものに立ち向かわなければいけない。英語にハンデのある外国人学生が米国学生と同等の権利を得るためには、それに伴う義務もきちんと果たすべく、ひたすら忍耐を持って努力することしかないわけである。その努力を楽しんでやれるかどうかが生き残れるかどうかに大きくかかわってくるのではないかと思う。

振り返ってみるに、私の場合は強いていえば、たぶんこの3つめの条件に叶っていたのだと思う。逆説的になるが、将来絶対これになりたいという確固とした信念など持たずに、日々のことを少しずつこなしてきたのが良かったのかもしれない。就職のためとかではなく自分のために勉強できたこと、あの10年間は苦しくもあったがそれだけで本当に楽しかったのである。  さて、これから留学をと考えている学部生、院生の皆さん。まずは夏休みを使っていくつか候補の大学を自分の足で回って見ることをお勧めする。自分で調べ、自分の目で見、自分自身で選択すること。これが後悔しないこつである。例え、うまくいかなかったとしても、他の国で勉強し自分の国を外から見る経験は目から鱗のはずである。そして、いつかきっとその経験は(その時に得た友達も含めて)あなたにとって最高の宝物になるはずである。

 


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